大阪ミナミのシンボル、グリコ看板下の戎橋。 観光客でにぎわうその裏側で、静かに進行している「グリ下」の変貌に注目が集まっています。 大阪市は、ごみ問題や長時間滞在によるトラブル防止のため、戎橋下に「万能塀」を設置する計画を進めていますが、この取り組みには賛否両論が巻き起こっています。
観光客増加とごみ問題:万博に向けた環境整備
2025年大阪・関西万博を控え、大阪市は観光スポットの環境整備に力を入れています。 グリコ看板周辺(通称「グリ下」)は、観光客によるごみ問題が深刻化しており、戎橋下にも居場所を求める若者の姿が見られることから、市は座り込みやごみ捨てを防止するため、鉄製の万能塀を設置する計画を発表しました。 高さ2メートル、長さ約20メートルにも及ぶこの万能塀は、座面スペースを覆い隠すことで、長時間滞在を困難にし、犯罪やトラブルの発生を抑止する狙いがあります。万博期間中は設置されたまま、閉幕後は斜めのパネルを設置する予定です。
「排除」される若者たちの不安:支援NPOの懸念
しかし、この万能塀設置計画に対し、ミナミの若者支援拠点であるNPO法人「D×P」からは懸念の声が上がっています。「若者にとって、これは『排除されている』と感じさせるものだ」と、今井紀明理事長は訴えます。 かつて外国にルーツを持つコミュニティの集まる場所であった戎橋下は、コロナ禍を経て居場所を求める若者の拠り所となっていました。 現在は賑わいが戻り若者の数は減りましたが、それでも時間帯によっては10人程度が過ごしているとのことです。 監視カメラ設置や万能塀設置といった対策は、行政による「追い出し」と受け取られてしまう危険性があると、D×Pのスタッフは指摘しています。
大阪市の支援策:一時宿泊施設の提供
大阪市は「グリ下会議」を設置し、D×Pなどとの連携の下、若者支援策を推進してきました。 西成区と浪速区に一時的な宿泊施設を提供するなど、具体的な支援策も進めています。 しかし、これらの支援策が、実際に「グリ下」で暮らす若者たちに十分に届いているのか、そして彼らのニーズに合致しているのかは、依然として課題として残ります。
観光と共存:難しいバランス
「グリ下」の問題は、観光客増加と若者支援という相反する課題が複雑に絡み合った、現代社会の縮図と言えるでしょう。 観光客の増加による経済効果と、居場所を失う若者への支援、そして街の清潔さの維持。 これらのバランスをどのように取っていくのか、大阪市をはじめ関係各所の更なる努力と、市民全体の理解が求められています。 この問題をきっかけに、私たちは「街」と「人」のあり方を改めて考える必要があるかもしれません。

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